店の前には誰もいないのに、Googleマップでは何人も迷っている。 の挿絵

「あ、迷ってはるな」
「入るかな」
「やめるかな」
「いや、そこまで来たなら入ってくれ」

心の中で、少し応援します。
正確に言うと、かなり都合よく応援します。

寒い日なんかは特にそうです。

外で悩まなくていい。
中で悩んでください。
水も出します。
メニューもあります。
人間は、屋内で悩むほうがいい。

でも最近は、その“迷っているお客様”が店の前にいません。

スマホの中にいます。

こちらからは見えません。
でも、向こうはこちらを見ています。

写真を見ている。
星を見ている。
営業時間を見ている。
クチコミを見ている。
そして、お店からの返信まで見ている。

怖いのは、こちらが接客しているつもりのない場所で、もう接客が始まっていることです。

店の前なら、暖簾を直せます。
入口を掃けます。
表情も作れます。
最悪、ちょっと声もかけられます。

「よかったらどうぞ」くらいは言える。

でもGoogleマップの前で迷っている人には、声をかけられません。

ただ、そこに置いてあるものだけが見られます。

返信していなければ、無言の店に見える。
冷たい返信なら、冷たい店に見える。
定型文ばかりなら、顔のない店に見える。

こちらが店内でどれだけ頑張っていても、スマホの中の店先が荒れていたら、そこで帰られているかもしれません。

しかも、その人は帰ったことすら教えてくれません。

来ていないので。

これが、いちばん怖いところです。

クチコミ返信というのは、投稿してくださったその人だけに向けたものではありません。

これから来るかもしれない人も読んでいます。

この店は感じがよさそうか。
何かあった時に、ちゃんと向き合う店か。
忙しい時でも、言葉が荒れない店か。
初めてでも、安心して入れそうか。

見られているのは、料理だけではありません。

人柄です。

Googleマップは、もう単なる地図ではありません。

もうひとつの店先です。

店先というのは、不思議なものです。

少し掃除されているだけで安心する。
暖簾が整っているだけで入りやすくなる。
逆に、入口が散らかっていたり、誰もこちらを見ていなかったりすると、なんとなく足が止まる。

Googleマップも同じです。

返信が丁寧な店は、丁寧に見える。
返信が冷たい店は、冷たく見える。
何も返していない店には、無言の印象が残る。

もちろん、現場は忙しいです。

仕込みもある。
接客もある。
発注もある。
スタッフの教育もある。
そこに「Googleマップの店先まで整えましょう」と言われたら、正直たまりません。

店主というのは、やることが多すぎます。

朝から晩まで働いて、最後にスマホの中の店先まで掃けと言われる。
なかなかの時代です。

でも、見えてしまった以上、もう見なかったことにはできません。

店の前を掃くように。
暖簾をかけ直すように。
最初の「いらっしゃいませ」を整えるように。

Googleマップの上にも、整えるべき店先があります。

そのことに気づいてしまったので、FRONTCASTを作ることになりました。

困ったものです。

商売というのは、気づけば気づくほど、仕事が増えます。

でも、まだ会っていないお客様が、今日もスマホの中で店の前に立っている。

そう思うと、やっぱり放っておけなかったのです。